子をあやしながら「これからも夫婦一緒に子育てをしていきたい」と話す公務員男性=11月中旬、鹿児島県内
企業に育児休業対象者への声かけが義務付けられ、男性の育休取得率が高まっている。鹿児島県の2023年度調査でも正規雇用の男性の取得率は44.1%で前年度を18.5ポイント上回った。一方、復職後、育児と仕事を両立できるか不安を感じる男性もいる。支援団体は「育休後こそ柔軟に働ける環境を」と訴える。
「ゆっくりお風呂に入っておいで」。仕事から帰宅した県内の男性公務員(27)は妻に声をかけ夕飯を作り始めた。乳児期の娘と妻の3人暮らし。日中は妻に育児を任せている。帰宅時には夕飯が準備されていることが多いが、そうでない時は「特に育児が大変だった日」と察する。「少しでも妻が休めるようにできることは何でもしたい」
元々は子どもが苦手で、出産に立ち会うまで親になる実感も湧かなかった。上司の勧めで育休を1カ月取り意識が180度変わった。おむつ交換、夜泣き、ミルク…。わが子に触れ合うほどいとおしさは増した。
しかし、職場には仕事一筋であることを大切にする先輩もいる。今後も娘の成長に合わせて休みを取りたいが、周囲に負荷がかかるのではとためらいもある。「育休後も子育ては続く。復職後こそ柔軟に休みが取れればいいのだが」
県の23年度労働条件実態調査によると、正規雇用の男性の育休取得率は5年前の約8倍にあたる44.1%だったが、女性の94.9%を大きく下回る。厚労省の23年度調査では、取得期間は女性の9割超が6カ月以上だが、男性は約4割が2週間未満にとどまる。
男性の育児支援をする「ファザーリング・ジャパン九州」の森島孝代表理事(45)=福岡県=は「母乳をあげる以外、男女でできる育児に差はないが、主体は母親という先入観は根強い」と指摘する。復職した途端、職場からフルタイム・残業を求められる人も少なくない。
女性が家事・育児、男性が仕事を担うのは一時的にバランスが良くても、長期的には男性が子どもとの関係性を築けなかったり、家計の責任を一手に背負ったりするリスクが高いという。「育休は、仕事と子育ての両立のための準備期間。企業は取得を促すだけでなく、誰もが休みやすい環境を整えることが重要だ」と話した。
■父子手帳、県内4市町村導入
男性の育児を支援しようと、鹿児島県内の4市町村が11月20日現在、「父子手帳」を導入している。母子手帳を「親子手帳」に改称する動きも出ている。
父子手帳は父親向けに育児の知識や行動をまとめたもの。導入しているのは日置市、南九州市、十島村、南大隅町。鹿児島県も交付した時期があるが、現在はしていない。
約10年前に取り入れた日置市の父子手帳は、妊娠初期から発育ごとに男性がすべき行動や、仕事と育児の両立支援制度の一覧などが記されている。同市は昨年度、第1子の家庭向けに100冊配布した。
母子手帳を「親子手帳」に改称したのは鹿児島市、指宿市、伊佐市。「男性に子育ての意識付けをする」「父子家庭への配慮」との理由が多かった。
男性育児の情報提供に取り組む「DaddySupport協会」(東京都)の代表で産業医・産婦人科医の平野翔大さん(31)は「男性は出産や育児を学ぶ機会が少なく、基礎知識のないまま子育てに臨みがち。妊娠時から準備できるかどうかが十分な育児参加の鍵になる」と話した。