バフンッ!と屁が出てロケットスタート。九州大会の切符をつかむ(連載 サンシャイン池崎の「イケザキクエスト第21話」)

2024/12/24 12:45
華麗なロケットスタートで県大会を制し、キャプテンに選ばれてしまったイケザキ
華麗なロケットスタートで県大会を制し、キャプテンに選ばれてしまったイケザキ
 「それでは次のキャプテンを発表する!」

 高校2年の夏、顧問の先生が投票箱の前で言った。鹿屋高校ボート部のキャプテンは毎年、部員の投票で決めることになっていた。

 「13票で池崎!」

 僕以外の全員が僕に投票していた。全くやりたくなかった。ただ選ばれる予感はあった。なぜなら直前の大会で結果を残してしまっていたから。僕は運動神経は良くない。しかも中学までは卓球部で、それほど運動をしてきたわけではなかった。当然ボートだって特別上手な訳ではない。そんな僕がなぜ結果を残せたのか?

 インターハイ県予選だった。鹿児島県内の6校が参加し、上位2チームが九州大会に出場できる。僕はダブルスカルという種目に、一緒に入部したイワマツと参加した。ダブルスカルとは2人乗りのボートのことで、僕は「バウ」と呼ばれるポジションだった。バウは進行方向の一番前に座る。自分のチームの選手も見え、他チームの動きも確認しやすいので、レース中にペース配分やコース指示、声出しや励まし、そしてエンジンの役割もあるといわれている。僕らは予選をなんとか突破し、決勝に進んだ。

 決勝は4艇のレース。ボート競技で大事なのはスタートのタイミングだ。4チームがスタート位置に着いたら、ピストルの合図でレースが始まるのだが、水の上での競技だけに波や風でスタート位置にぴたりと並ぶのが難しい。スタート位置に着いても、他校のボートを待っているうちに波と風で微妙に位置がずれるので、また位置を修正する。4校がぴたりと並ぶまで、この微調整を続けなくてはいけない。決勝の緊張の中、誰も声も出さず細やかな調整を繰り返す。

 そして、ぴったりと合う瞬間がついに訪れた。ボートに取り付けられている尻を載せるシートはスライドするようになっており、選手たちはシートを前に滑らせ、膝を曲げ、若干の前傾姿勢を取る。和式トイレに座ってるような姿勢でスタートに備える。緊張感が一気に高まる。これで九州大会出場が決まるのだ。

 ピストルを持った審判の手がゆっくりと上がるのが見えた。いよいよ始まる。グッと力が入った。次の瞬間。バフンッ! ピストルより一瞬早く僕のお尻が爆発した。屁(へ)が出た。その音を聞いたイワマツが反応する。イワマツ止まれ! 今のは屁だ! そう伝えようと思った瞬間、パンッ! 審判のスタートのピストルが鳴り、レースが始まった。始まるんかい!

 「イワマツ! 最初で引き離すぞ!」

 「おう!」

 屁こきエンジン池崎は逃げるように叫んだ。どのチームより完璧なスタートを切った僕らは自己ベストをたたき出し、九州大会の切符を手にすることができたのであった。

 このレース結果が評価され、キャプテンに選ばれたのだからしょうがない。

 屁から出たさび、いや身から出た屁か。

つづく。

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