かつてこの島には学校があった。「跡地は売らない」…数カ月後、市は防衛省と売買契約を結んだ。地元置き去りの自衛隊基地整備…着工後、国との協議は激減した

2025/01/16 07:03
馬毛島に上陸し、視察する住民訴訟の弁護士や原告ら=11日午後2時半ごろ、西之表市馬毛島
馬毛島に上陸し、視察する住民訴訟の弁護士や原告ら=11日午後2時半ごろ、西之表市馬毛島
 鹿児島県西之表市馬毛島で、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う自衛隊基地整備が始まって2年がたった。地元では賛否の論争から、古くから続く暮らしや産業をどう守るかに焦点が移りつつある。26日告示の市長選、市議選を前に、基地工事がもたらした功罪を追った。(連載・馬毛島の現在地 基地着工2年④から)



朝日が今日もにこにこと
東の空にあがるとき
みんなの小屋から煙たち
平和な島よ この里は
ああ馬毛島小中校

 2024年12月、鹿児島地裁の法廷に校歌が響いた。防衛省に馬毛島小中学校跡地を売却するなどした西之表市の手続きを問題視した住民訴訟。12歳まで島で暮らし、今は種子島に住む60代女性が基地化が進むもどかしさを意見陳述した。「古里を失う悲しさを裁判官に伝えたい」と歌うことはこの日に思い立った。

 市民29人が23年12月に提訴した(原告は現在30人)。八板俊輔市長が学校跡地売却を明確に否定しながら、数カ月後に防衛省と売買契約を結んだことに端を発する。

 原告側は「裁量権の逸脱・乱用で違法」と主張。市側は「適正な対価で譲渡された」などと、全面的に争う姿勢を崩していない。

 ■ □ ■

 馬毛島の自衛隊基地整備を巡っては現在、二つの裁判が係争中だ。住民訴訟のほか、漁を営む権利が侵害されたとして地元漁師が基地工事の差し止めを国に求めている。原告には望郷の思いや怒りがにじむ。

 漁師の男性(69)は20年以上にわたり、馬毛島を巡る複数の民事訴訟を起こしてきた。工事差し止めを求める訴訟の原告でもあり、地元に対する国の向き合い方に疑問を抱く。「漁業の影響について、防衛省は漁協と協議すればいいと思っている。横着だ」。判決は今年3月に鹿児島地裁で言い渡される。

 原告らは年明けの11日、馬毛島に上陸。変わりゆく古里を目の当たりにした。同行した塚本和也弁護士(36)は「裁判所は基地の公共性を容易に認定してしまう」と指摘。一方で新設基地という点に着目し「『環境影響評価などの手続き違反』『新たな危険が生じる』など、従来と違う論点で主張が認められる可能性はある。国の強引な手法を明らかにする」と話す。

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 「地元理解が重要」としながら、国主導で進む形は過去の経過から明らかだ。

 「市民の安心安全の追求」を目的とした西之表市と防衛省の協議は、22年2月の初会合から23年1月の着工まで11回に上る。一方、着工後は、基地工事による市民生活への影響が顕在化し、市が再三呼びかけたものの、3回にとどまる。

 着工前後で顕著に偏り、実質的に国の情報発信に終始。当初からの議題だった種子島上空の飛行を禁止する具体策は、いまだ着地点が見いだせていない。

 市議会も21年9月に基地賛成派議員の発議で、基地計画についてこまめな説明を求める国への意見書を可決した。しかし、実現したのは数えるほどで、意見書は有名無実化していた。

 「デメリットは最小限に、メリットは最大限に」とは、市民の代表者たちが幾度も口にした言葉だ。基地工事は30年3月末まで続くとされる中、今後4年間の民意を背負う市長選、市議選はもうすぐ始まる。

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