過疎化が進む集落に風力発電計画がもたらす未来は地域活性か、それとも悪影響か 期待と不安に揺れる地元に再生エネ推進の課題凝縮

2025/02/03 11:00
風車8基の建設が計画されている八重山周辺。手前には日置市・重平山の風車が並ぶ=日置市伊集院の城山公園から撮影
風車8基の建設が計画されている八重山周辺。手前には日置市・重平山の風車が並ぶ=日置市伊集院の城山公園から撮影
 鹿児島市と薩摩川内市にまたがる八重山周辺の風力発電計画について、地元で賛否が割れている。事業計画も見直しが続き、不透明性を増す状況だ。国は再生可能エネルギーの推進を掲げるが、ほかの県内計画地でも住民らの反対が相次ぐなど、地域との共生は全国的な課題となっている。専門家は立地地域が騒音や景観問題の犠牲を払うだけでなく、納得できる仕組みづくりが必要と指摘する。

 昨年末、鹿児島市の郡山公民館であった地元説明会は約200人でいっぱいになった。参加者からは賛成、反対のさまざまな意見が出されたが、会は時間切れとなり終了した。

 本岳自治会会長(72)は、工事で整備される道路や風車の維持・管理業務による地域の活性化に期待する。「住民は約50世帯に減り、過疎化は進むばかり。八重山に訪れる人が増えるきっかけになれば」と話す。

 一方、郡山校区コミュニティ協議会会長(77)は「自然豊かな、地域の宝の八重山に建設する必要があるのか。災害や騒音への懸念も解消されていない」と指摘。事業者にはさらなる説明会や環境への影響の軽減措置を求める。

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 建設を計画する事業者は、ヴィーナ・エナジー(本社シンガポール)の子会社「かごしま郡山風力合同会社」。事業化に必要となる環境影響評価(環境アセスメント)の手続きを現在進めており、県知事意見を踏まえた2022年の経済産業相勧告を受けて事業計画を大幅に見直した。現在は、170ヘクタールに最大159メートルの風車8基を整備する計画だ。

 その修正案に対して、県は24年11月、風車から1キロ内の住居への騒音と、景観への影響の7項目で県知事意見が反映されていないとする文書を送付。同社は改めて、「影響を軽減するための環境保全措置の追加などを検討中」とする。

 当初は、来春にも環境アセスで最終段階となる評価書を経産相に提出する方針だった。現在は「未定」となっている。

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 県内で計画が相次ぐ風力発電施設を巡っては、業者と住民とのあつれきも見られる。それぞれの地元で計画に反対する鹿児島市や伊佐市の住民らは昨年7月、情報共有などを目的にした組織を設立した。

 風力発電について東北芸術工科大学の三浦秀一教授(61)=地域エネルギー学=は「現状は地域のためではなく、事業者などの利益のための開発になっている」と指摘する。環境アセスのわかりにくさや協議の場の少なさ、発電電力の地産地消が進んでいないことなどを課題に挙げる。

 温暖化対策として再エネの推進が期待される中、いかに地域共生を図るか。全国知事会は昨年、「交付金制度の創設」や「地元自治体の意見が適切に反映される仕組みの構築」を国に要請。地域共生に向けた税の導入など独自制度を設ける自治体も増えている。

 三浦教授は解決策として、原子力や水力発電にはある電源立地地域対策交付金制度の導入や、再エネを示す「非化石証書」の立地地域への無料配布、再エネ推進に向けた国と地方の役割分担の明確化を挙げる。「事業者にとっても住民理解を得るのが難しくなっているのが現状。国が責任を持って新たな仕組みを構築する必要がある」と話す。

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