診察する県小児科医会の湯浅由啓会長=1月、鹿児島市
鹿児島県内の医師会で、休日や夜間の体調不良に対応する当番医制度存続への危機感が広がっている。担ってきた開業医の高齢化が進む一方、人口減が想定される中で新規開業は伸びない。医療の細分化で、夜間の専門外の診療を避ける例も。「今の状態では当番医を続けるのは難しい」。現場からは不安の声が聞かれる。
「午前8時半から午後6時半まで、スタッフを含めほとんど休憩が取れなかった」。鹿児島市のかごしまたんぽぽ小児科の山元公惠院長(61)は、当番医を務めた今年の元日を振り返る。インフルエンザの流行もあり、180人を超える患者を1人で診た。
当番医は自治体が地元医師会などへ委託。日曜・祝日の日中の急病やけがに対応する。鹿児島市医師会は内科や眼科など専門部会ごとに開業医に希望者を募り、当番制を敷く。
小児科は現在、全19医療施設が参加する。年末年始や連休は2カ所開く場合もあり、各院が年5回ほど担当する。山元院長は「2カ月に一度のペースは多いと感じている医師も少なくない。協力がなければ成り立たない状況」と明かす。
県小児科医会によると、2007年に68人いた開業医は49人まで減った。会員の平均年齢は66歳。鹿児島市は66.4歳で、19人のうち50歳以下は数人だ。
「10年後には何人が当番医をできるだろう」。県小児科医会の湯浅由啓会長=同市=は危惧する。感染症の流行期には1日200人以上が訪れることもある。「高齢になると、体力的にも厳しくなるかもしれない。若い先生方に期待したい」
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夜間の態勢でも危機感は広がる。南九州市と南さつま市で構成する南薩医師会の菊野竜一郎会長(65)は「当番医が『専門外』を理由に診察を避ける例が増えている」と打ち明ける。
同会の夜間の輪番は午後6時から翌日午前8時まで、9医療機関で回す。内科や外科、整形外科などが担っており、専門外でも受け入れる医師の負担増が懸念されている。
背景にあるとみられるのが、医師の専門の細分化だ。菊野会長は「専門分野でないと、初期とはいえ、診察や治療の判断に迷う場合もある。患者のリスクに加え、訴訟など医師側のリスクを考えてしまうのではないか」と推測する。
菊野会長は解決策として、バックアップ体制の整備を挙げる。想定するのは、11年に鹿屋市に開所した大隅広域夜間急病センターだ。同市など大隅4市5町で運営。夜間の内科、小児科、外科の急患を診察し、対応できない場合は鹿屋医療センターや、おぐら病院に搬送する。
菊野会長は「南薩も隣接する指宿市や枕崎市と広域で連携し、センターをつくれないか。医師が安心して診察できる態勢があれば。もしもの際は鹿児島市の設備が整った病院に搬送できる体制が望ましい」と話す。
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県医師会によると、県内の開業医は1月時点で1095人。15年前に比べ130人減った。進行する人口減少や現在の診療報酬による経営不安で、新規開業は伸び悩む。
地域、救急医療を担当する大西浩之副会長(63)は「厳しい状況が続く」と語る。2.3次救急の現場は医師の働き方改革の影響や、若手医師や看護師らの人手不足が指摘される。開業医による休日・夜間の初期体制が崩れれば、高次救急のひっ迫も懸念される。「地域に合った初期救急は必要。医療機関同士のカルテ共有やオンライン診療の活用なども考えながら、カバー体制を考えていかなければ」と話す。
曽於、志布志、大崎の2市1町で構成する曽於医師会は昨年12月、初めて行政と意見交換を行った。県医師会が年1回開く地方医師会との懇談会に、地元首長らの参加を呼びかけた。
曽於医療圏は県内の2次医療圏で最も医師が少なく、小児科医はゼロ。医師不足や高齢化が進む現状を伝えた。手塚善久会長(69)は「現場の声を届けられた。今のままでは近隣地域にしわ寄せが広がってしまう。県も一緒になって考えてほしい」と訴えた。
■鹿児島地域への偏在目立つ
県内の医師数自体は減っていない。2022年は4668人で、20年から15人増えた。人口10万人当たりの数は298.7人で、全国平均の274.7人を上回っている。目立つのが鹿児島地域への偏在だ。
九つの2次医療圏別でみると、鹿児島は全国平均の約1.6倍に当たる434.9人だが、残りの8医療圏はすべて全国を下回る。最も少ない曽於(117.6人)と鹿児島は約3.7倍の開きがある。
高齢化も深刻だ。22年の県内医師の平均年齢は53.4歳で、全国より3.1歳高い。年代別推移では60代以上が18年に30%を超え、22年は35%まで増加。一方、20、30代は減少傾向で、22年は22%。30代以下の数を04年を基準に比べると、22年は全国が108.9%と伸びたのに対し、鹿児島は90.2%と1割近く減少している。
24年度に県内に就職した臨床研修医は94人で、前年度より27人減った。若い医師の確保は進んでいない。