沖永良部島の住民らの避難手順を確認した図上訓練=1月28日、鹿児島県庁
鹿児島県は総額8527億3400万円の2025年度一般会計当初予算案を発表した。基幹産業の「稼ぐ力」の向上や総合的な少子化対策、担い手不足解消に向けた人材確保・育成策の3本柱に重点配分する内容だが山積する課題は多い。塩田康一知事2期目の予算編成を通して、各分野の現状を探る。
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民間の航空機や船舶を使い、奄美群島の全住民が九州本土に避難するまでに14日間を要する-。鹿児島県は1月末、この試算を基に他国からの武力攻撃が予測される事態で、奄美群島の約10万2000人が避難する想定の国民保護訓練を実施した。住民や避難を支える民間人の生命を守るには日程短縮が不可欠だが、輸送力や入院患者らの受け入れ先確保といった大規模避難の実効性に課題が残る。
屋久島町で2022、23年度に武力攻撃を想定した全島避難訓練をしたことを踏まえ、県は人口と市町村数が多く県本土から遠い奄美群島の避難計画策定に着手。24年度は和泊、知名両町で実動訓練を行った。25年度以降は群島の他の市町村でも訓練を計画している。県が示した奄美群島の避難方針案を参考に、各市町村は島外避難の実施要領を作る。
▽14日間
課題の一つは12市町村の住民約10万2000人を円滑に九州本土に運ぶための輸送力確保だ。現時点の試算では、県内で運航する民間の船舶や航空機を「最大限活用」(県危機管理課)しても14日間かかる。
1月28日に県庁であった図上訓練に参加したマルエーフェリー(鹿児島市)の川原義人安全管理対策室長(70)は「住民のために最大限協力したい」とした上で、「14日は長い。民間船舶が運航できないような事態に進展してしまうのではないか」と懸念する。
避難期間短縮は船員の安全確保にもつながる。「他県で運航する船舶や奄美大島に寄港実績があるクルーズ船の活用も考えてほしい」と提案する。
▽要支援者
県は24年度の訓練準備を通じて、奄美群島には入院患者2631人、福祉施設の入所者2276人が居住していることを把握した。
鹿児島市立病院の吉原秀明救命救急センター長(62)は「鹿児島の医療機関だけでは受け入れられない可能性がある」と指摘する。
政府は、他国から武力攻撃を受ける事態を想定し、九州・山口8県に沖縄の避難住民受け入れを要請。各県に初期計画の策定を求めている。鹿児島県は25年度一般会計当初予算案で国民保護訓練事業約1000万円のうち、奄美群島の訓練に関わる事務的経費約500万円に加え、沖縄県・先島諸島からの避難住民受け入れに絡む事務的経費約500万円を計上した。
国の動きは台湾有事を念頭にしているとみられる。奄美の住民と一緒に沖縄県民が九州に避難する事態となれば、病床のひっ迫は避けられない。吉原センター長は「まずは県内の受け入れ可能人数を把握するべきだ。訓練を絵に描いた餅にしないためにも県境を越えた協力は国にも仲介してほしい」と話した。
(随時連載「鹿県予算案2025」から)