三島村の硫黄島に住む患者をオンラインでつなぎ診察する医師=2022年1月、三島村の竹島診療所(鹿児島県提供)
鹿児島県は総額8527億3400万円の2025年度一般会計当初予算案を発表した。基幹産業の「稼ぐ力」の向上や総合的な少子化対策、担い手不足解消に向けた人材確保・育成策の3本柱に重点配分する内容だが山積する課題は多い。塩田康一知事2期目の予算編成を通して、各分野の現状を探る。
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南北約600キロに及び、28の有人離島を有する鹿児島県。少子高齢化や過疎の進展で医師の確保が課題となる中、県は2025年度から離島・へき地における遠隔医療のモデル事業を始める。離島医療の関係者からは期待とともに、電子カルテなど医療機器の整備や対応する看護師の研修を求める声が聞かれる。
市町村が設置するへき地診療所は現在、本土13、離島35の48カ所。うち常駐医師がいない三島村、十島村の11診療所では、医師の定期訪問ができない場合や急患時に拠点病院と結びオンライン診療を実施している。
「医師が行けない時に診療が成り立つのが、オンライン診療の何よりの利点」。人口89人の十島村悪石島に月1度、巡回診療に訪れる鹿児島市の鹿児島赤十字病院の内科医、永井慎昌さん(63)は話す。
23年12月末に起きたフェリー火災で約3カ月間、島に行けなかった。その間、診療所とビデオ通話でつなぎ、住民に問診し、薬を処方した。「オンライン診療の精度も上がっている。少子高齢化が進む現状では有効な医療確保の手段。島民に有効性を伝えることも必要」と指摘。「内科だけでなく、巡回が年1回の眼科や耳鼻科、皮膚科などにも広げられたら」と語る。
一方、20年以上村に通ってきた経験から対面診療の重要さも感じている。「直接話をすることが患者の不安を和らげる。オンラインが普及するからといって、定期的な巡回診療をやめてはならない」と訴える。
遠隔診療を支えるのが、診療所の看護師だ。三島、十島両村の診療所には1~2人が常駐しており、オンライン診療時は医師の指示で採血や血圧測定などを行う。ただ両村とも電子カルテは未導入。薬の服用歴や既往歴など紙カルテの情報を医師に伝えるのも仕事だ。悪石島診療所の石峰望さん(40)は「何を伝えればいいか情報の取捨選択が難しい。電子カルテが導入されれば、医師に確認してもらえる」と明かす。
電子カルテだけでなく、エコーやレントゲンなどの検査機器が整備されていない診療所も多い。三島村の担当者は「高度な機材があれば、できる診察が増える。対応する看護師のスキルアップ研修も必要になる」と指摘する。
県は25年度当初予算案にオンライン診療の整備に向けた導入手法の検討や実証に1200万円を計上した。へき地診療所の数カ所を選び、どのような症状に有効かなどを検証していく。保健医療福祉課は「交通条件が悪く、受診に時間や費用がかかる県民の負担を軽減できるよう、活用手段を検討していきたい」と話す。
(随時連載「鹿県予算案2025」から)