英語のパンフレットを手に、大吉枝美専務の説明に耳を傾ける香港からの観光客=指宿市山川の大吉農園
鹿児島県は総額8527億3400万円の2025年度一般会計当初予算案を発表した。基幹産業の「稼ぐ力」の向上や総合的な少子化対策、担い手不足解消に向けた人材確保・育成策の3本柱に重点配分する内容だが山積する課題は多い。塩田康一知事2期目の予算編成を通して、各分野の現状を探る。
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政府観光局が公表した2024年の訪日客数は3686万9900人と、新型コロナウイルス禍前の19年を15.6%上回り、過去最多となった。記録的な円安も重なり、観光業は訪日客需要に湧くものの、7割近くは三大都市圏に集中するというデータもある。外貨獲得は観光県・鹿児島にとっても重要な位置付け。拡大が見込まれる訪日客の受け入れ体制作りは急務だ。
県の観光動向調査では、24年の海外からの宿泊客は各月とも前年を上回った。コロナ禍で運休していた鹿児島空港(霧島市)の国際定期便の再開が大きな要因だが、九州運輸局によると、24年の同空港からの入国者数は約7万人と19年比で4割弱。約2.5倍となった熊本空港を含む九州の主要8空港では下から2番目で、出遅れ感は否めない。
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「私たちは環境に優しい野菜を作っています」-。指宿市山川で2月上旬、大吉農園の大吉枝美専務(49)が香港からの観光客に説明していた。手には農園や野菜について英語で書かれたパンフレット。一行はスナップエンドウやサヤエンドウなどを収穫し、採れたてをほおばっていた。
構成員として鹿児島県も加入する九州観光機構が中華圏の春節(旧正月)に合わせた企画の一環。食をテーマにしたアジアの富裕層向けのツアーで、同農園のほか焼酎蔵やかつお節工場を巡るなど、鹿児島ならではの体験型を意識した。
同機構の川村和彦海外事業部長(55)は「富裕層は日本の地方部での体験を求める傾向が強い。主要観光地以外にも経済効果を広げたい」と力を込める。大吉専務も「まずはできる範囲でおもてなしを磨き、鹿児島の風土、魅力を伝えられたら」と意欲的だ。
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県は観光関連事業に、前年度当初予算より約1億円多い22億6000万円を計上する。国際定期路線の新規開拓やデジタルプロモーションなど訪日客誘致を見据えるが、観光関係者からは回遊性の向上や2次交通の整備など「受け入れ体制構築が先決」との声も根強い。
24年の寄港回数が151回と過去最多に迫った国際クルーズ船も、乗客らの行き先は主要観光地に偏る。塩田康一知事は好調さを強調しつつ「課題は経済効果の県全体への波及」と述べ、新たなオプションツアーづくり支援をクルーズ関連事業に組み込む。
宿泊に飲食、農業や交通など、観光はあらゆる分野から成り立つ。県PR観光課の鶴田晃紀課長(55)は「観光客と消費額増加へつなげるため、各分野と連携して観光資源を磨き上げ、より良い受け入れ体制を模索し続けたい」と話した。
(随時連載「鹿県予算案2025」から)