「走ってナンボ」…男性は60歳で転職した「稼ぎを戻したいから」。残業規制を厳しくした24年問題。新卒者は5年いない。事業者のため息は深い

2025/03/04 06:03
JA物流かごしまの試験輸送で農作物を積み込むドライバー=2024年7月、鹿児島市七ツ島1丁目
JA物流かごしまの試験輸送で農作物を積み込むドライバー=2024年7月、鹿児島市七ツ島1丁目
 トラック運転手らの時間外労働時間の上限規制などが昨年4月に強化され、間もなく1年を迎える。長時間労働の解消が進む一方、運転手1人当たりの働ける時間は減り、コスト上昇や人手不足により物流の停滞が懸念される「2024年問題」が現実味を帯び始めた。運送事業者はモーダルシフト(輸送手段転換)などに知恵を絞り荷主側への理解も広がるが、費用負担は重くのしかかる。本土最南端の食料供給基地を取材した。

 「走ってなんぼの世界。残業時間という概念はなかった」と話すのは、トラック運転手歴約30年の男性(60)。2月末まで日置市の運送会社で県内産スナップエンドウやピーマンなどを九州各地へ運んでいた。

 厚生労働省によると、トラック運転手は全産業平均と比べ、労働時間は2割長く所得は9割にとどまる。残業が規制され手取りはさらに減る。これまで無理に働けば稼げていたが「時間を気にするため走りにくくなった」という。

 規制前の収入に戻したいと、男性は長距離運転手を目指して、3月からは別会社に転職した。「生活が第一。体が許す限りは、ハンドルを握っていたい」

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 昨年4月以降、運転手の時間外労働は年960時間に規制された。野村総合研究所の推計では、対策が講じられない場合、荷物総量のうち30年には全国で約36%、鹿児島は約41%が運べなくなる。

 「手の打ちようがない」と明かすのは、昭和貨物(鹿児島市)の加納潤一社長(66)。以前は片道4日かかる関東以北にも建設資材などを運んだが「法律を順守すると遠方への輸送はできない。九州と関西までが限界」と語る。

 昨年4月以降、荷主の協力は得られやすくなった。日をまたぐこともあった翌日配送分の荷積み作業や待ち時間は改善され、遅くても午後7時ごろには終わる。ただ年度末になり、積み重なった残業時間の調整で「2割程度、運行に支障が出そう」と頭を抱える。さらに3月下旬からは、引っ越しがピークを迎える。

 新卒者の入社は直近5年間ない。引っ越しも人手不足で受けられる件数は年々減る。長距離輸送を担う50~60代のベテランが抜けると思うと不安が募る。加納社長は「トラックだけあっても運べない。人がいてこその仕事。この先どうなるのだろう」と嘆く。

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 鹿児島市谷山港2丁目のJA物流かごしまは、輸送量のうち7割程度を東京や大阪など大消費地に運ぶ。試験輸送などで24年問題に取り組んでおり、ジャガイモ、ニンジン、ダイコンで荷物を載せるパレット(荷役台)を導入。3時間かかっていた荷役作業は30分で終わるようになった。

 陸送からフェリーを使う海上輸送を活用し、労働時間の基準もクリアできた。ただ燃料高騰で、フェリー料金は前年より1台当たり6000~2万円値上がりした。規制強化で1カ月あたりの運賃収入は減り、収益は圧迫されている。

 早稲田一剣幹線事業部長(51)は「生産者側の負担を考えると値上げも言い出しづらい。24年問題に対応するには、お金と人材が必要」。パレット使用や荷役作業に協力的な荷主がいる一方、人手不足や積載効率を理由に断られることもある。「全国の食卓を守るためにも、公的機関の助成や適正価格を守ることが必要」と訴え、社会一体で24年問題への対応を求めた。

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