捜査機関による捜索や差し押さえの可否を決める裁判所=22日、鹿児島市山下町
鹿児島県警の情報漏えい事件を巡り、県警は福岡市のウェブメディアを家宅捜索した。取材活動に従事する記者にとって、「取材源の秘匿」は堅守すべき鉄則であり、それを脅かす事態となっている。警察権力の暴走か適正な捜査か-。連載「検証 鹿児島県警」の第3部は、一連の経緯や海外の事例を通し、メディア捜索の是非を考える。(連載・検証 鹿児島県警第3部「メディア捜索の波紋」④より)
捜査当局によるメディア側への家宅捜索や取材情報の差し押さえを巡っては、ドイツにも論議を呼んだ事例がある。「キケロ事件」と呼ばれ、これをきっかけに、メディア側の自由を強化する法改正が行われた。
事件の概要はこうだ。2005年3月、政治問題を取り扱う月刊評論誌「Cicero(キケロ)」に、テロリストに関する記事が掲載された。フリージャーナリストからの寄稿で、「公務限定」と表記された連邦刑事局の内部報告書を詳細に引用していた。
同局は6月、職務上の秘密漏示の疑いで告発し内部調査を進めたが、漏らした人物の特定には至らなかった。
約2カ月後、検察庁は秘密漏示をほう助した疑いで、フリージャーナリストと「Cicero」の編集長の捜査を開始。裁判所は編集部とフリージャーナリストの自宅の捜索と差し押さえを命じた。通信会社に対してはフリージャーナリストの通信履歴データを引き渡すよう命じた。
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フリージャーナリストはこの命令を不服として抗告。上級審は06年2月、通信履歴データの提出を命じることができる「重大な犯罪」には当たらず、当初の決定は違法だとして訴えを認めた。
編集長も捜索と差し押さえなど4件について憲法異議を申し立てた。裁判所は07年2月、プレス(報道機関)の自由の基本権などを侵害するとして、いずれも憲法異議を認めた。
これらの裁判所の判断を踏まえ、ドイツは12年、プレスの自由を強化し差し押さえのハードルを上げる法改正をした。具体的には、報道関係者が秘密の漏示をほう助したとしても、秘密の「受領・評価・公表」にとどまる限り違法ではないとした。報道関係者への差し押さえについては、共犯の疑いがあり、かつ「緊急の嫌疑を根拠づける場合」に限ると厳しくした。
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鹿児島県警の内部資料「告訴・告発事件処理簿一覧表」を入手したウェブメディア「ハンター」は、一部黒塗りにした一覧表をウェブに掲載した。これらの資料を基に、県警の捜査の在り方を批判する記事も発信。県警は漏えい事件の捜査として、鹿児島地裁から許可状を得た上でハンターを家宅捜索し、パソコンなどを押収した。
ドイツのメディア法に詳しい愛知県立大学の杉原周治准教授は「単純比較はできないが、ハンターへの捜索はドイツでは違憲とされるだろう」とみる。「情報の公開にとどまり、共犯の疑いも感じられない」ためで、判例に照らしても違憲とされる可能性が高いと指摘する。「重要な公の利益に関わる情報が漏えいした場合は認められる可能性もあるが、今回の件は当たらないだろう」と分析している。