猛威振るう鳥インフルエンザ「対策しても再発」続き疲弊する養鶏地帯 越冬するツルへの給餌に集まる野鳥、給餌減らせば食害増えるジレンマ 鹿児島県内

2025/03/26 21:00
高病原性鳥インフルエンザが再発した養鶏場(奥)は、野鳥が集まる越冬地のすぐそばにある=3月上旬、出水市高尾野
高病原性鳥インフルエンザが再発した養鶏場(奥)は、野鳥が集まる越冬地のすぐそばにある=3月上旬、出水市高尾野
 秋から春の渡り鳥の季節に流行する高病原性鳥インフルエンザは今季、全国の養鶏場で猛威を振るい、鹿児島県内でも出水市と霧島市で計3例、約32万羽を殺処分した。4季連続発生となった出水市は野鳥が集まる越冬地と養鶏地帯が近接し、リスクが特に高いとされる。養鶏関係者らはカモなどの野鳥を密集させ感染を広げかねないとして、ツルの餌やりを問題視する。

 3月上旬、出水市高尾野の養鶏場を訪ねた。ツル越冬地が目の前に広がり、野鳥が上空を飛び去る。経営者の男性(66)は「周囲は野鳥が多い。昔は鳥インフルはなかったから良かったが、今は夏以外は気が休まらない」と吐露する。

 2棟で採卵鶏を12万羽飼っていたこの養鶏場は昨年11月、高病原性鳥インフルで全羽殺処分した。被害は2度目。前回2022年の発生で目立った不備は指摘されず、その後も外気の消毒装置を設置するなど対策を強化したのに再発した。

 経営再開は5月、卵の出荷は6月以降。それまで収入はないが、5年前に億単位をかけて建てた1棟の返済は続く。「辞められるならまだまし。借金があり、土地もないからここで続けるしかない。せめて野鳥を密集させないでほしい」

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 地元養鶏関係者が懸念するのがツルの餌やり。ウイルスの自然宿主とされるカモも集まり、他の野鳥に感染を広げる恐れがある。

 22年に同市高尾野で採卵鶏6万羽を殺処分した男性(76)は「ツルは悪くない。問題は餌目当てのカモやカラス。絶滅危惧種のツルも死んでしまう」と危惧する。22年季はツルが鳥インフルなどで1500羽近く死に、今季は60羽超が陽性だった。

 農林水産省も野鳥によるウイルスの拡散防止へ安易な餌やりを控えるよう促す。クレインパークいずみ(同市)によると、給餌を担うツル保護会もカモを寄せ付けないよう餌のまき方を工夫し、給餌量半減を目標に20年度から段階的に餌を減らす。

 ただ給餌は、ツルによる農作物の食害対策の側面もある。給餌を減らしてから被害は増加傾向にあり、それまで100万円未満だったのが、ツルが自然に分散した22年度は357万円と過去10年で最高となった。

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 一方で、県家畜防疫対策課によると、鶏の殺処分をはじめ鳥インフル発生に伴う費用は過去最多の県内13例となった22年度で約33億円、24年度は約10億円だった。高尾野の男性は「養鶏は出水の基幹産業。地域経済に与える影響も大きい」と餌やりの中止を訴える。

 鹿児島大学共同獣医学部の小澤真教授(ウイルス学)は、22年度はツルと鶏で流行したウイルス型が違う点に着目。「餌やりと、ツルで感染が広がったこと、鶏に被害が出たことを単純につなげられない。ただ、カモを餌場やねぐらに寄せ付けない工夫は必要」と指摘し、「ウイルスの侵入経路を一刻も早く解明し、国は生産者に効果的な対策を提示すべきだ」と話す。

 鳥インフルの発生が常態化する中、生産者は疲弊している。日本一のツルの越冬地で、一大養鶏地帯でもある出水市。地域ぐるみでの対策が求められている。

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