松元機工が乗用型摘採機を開発したことで茶園の大規模化が急速に進んだ=18日、南九州市頴娃
鹿児島県は2024年産の荒茶生産量で初の日本一になった。戦後に生産を拡大した後発産地ながら、官民一体となって先進的な取り組みを進め、ニーズに柔軟に応えてきた。県内茶業界の歩みを振り返り、現状と課題を探る。(連載「かごしま茶産地日本一~これまで/これから」②より)
鹿児島市街地から車で1時間ほどにある南九州市。県内一のお茶どころに入ると、見渡す限り茶畑が広がっていた。
鹿児島の茶業は大規模化が進んでいる。2020年の1戸当たり栽培面積は3.6ヘクタールあり、全国平均の2.4倍。法人だとさらに大きく、1経営体だけで300ヘクタール近いところもある。
桁違いの規模拡大が可能となり、茶業を産業として発展させたのが乗用型摘採機だ。県内の導入率は今や98%。手摘みやはさみ摘みがまだまだ主流の時代に、全国に先駆け松元機工(南九州市)が開発した。
松元雄二社長(51)は「生産者と二人三脚で機械化を進めてきた。今は1台で1日当たり10ヘクタールほど摘採できる。手摘み400人分の労働に相当し、省力化に貢献している」と胸を張る。
■全国の標準に
鹿児島が茶生産を本格化したのは昭和40年代で、高度経済成長期と重なる。都市部へ若者が流れ農村の労働力が不足する中、特に労力がいる摘採作業の省力化は大きな課題だった。
動力摘採機を研究していた松元機工はこの頃、県からの要請もあり乗用型機械の開発に着手。当時の県茶業試験場や生産者の協力で改良を重ね1971年、原型機を造り上げた。
完成から間もなく地元の複数の生産組合に導入されたが、操作の不慣れもあり広がりを欠いた。「生産者が機械化を目指す研究会をつくったり、競技大会を開いたりして技術向上を図ってくれたと聞く」と松元社長。
茶園も機械化を前提に整備が進んだ。機械が乗り入れられるように一部の茶を引き抜いてスペースを確保し、傾斜地は階段型の「テラス式」に造成した。試験場が77年に全国初の乗用型機械による栽培体系を確立したこともあり徐々に普及が進んだ。
現在、全国の多くの茶園は茶樹の幅を1800ミリ以下にそろえる。松元機工の規格が全国のスタンダードとなり、整然と並ぶ茶畑を形作った。
■スマート化
機械化が進んだとはいえ、鹿児島の産地も昨今の人手不足に悩まされている。さらなる省力化へ、鹿児島堀口製茶(志布志市)は2019年度から2年間、松元機工や県と無人で茶を摘む「ロボット茶園管理機」の実証試験に取り組んだ。
自社管理の茶園116ヘクタールで稼働する摘採機6台のうち2台を無人機にすると、作業時間は40%以上削減でき、そのまま採用した。まだ人間による監視は必要だが、「完全無人化」に近づいている。
20年度からは、気象や新芽の状態といったデータを基に収穫時期を予測する摘採支援システム、茶葉の収穫量や成分から茶畑を評価し一覧できる視覚化ソフトも導入した。
系列農家にも共有しており経営改善に役立っている。堀口俊副社長(46)は「これらの技術が普及すれば、労働力不足が解決するだろう」と期待する。