昨年の私立中・高フェアであった就学支援金説明会=2024年7月上旬、鹿児島市の城山ホテル鹿児島
高校授業料の無償化を盛り込んだ政府の2025年度予算が3月31日、成立した。国公私立に通う生徒を対象に所得制限付きで支給していた年11万8800円の就学支援金が、年収を問わず全世帯に支給される。鹿児島県内の保護者や私立高からは歓迎の声が上がる。一方、地方校関係者は公立離れに拍車がかかり、さらなる定員割れとなることを懸念する。
公立高2年の長女を持つ霧島市の女性(45)は「浮いた授業料を、学習用端末の購入費や塾の月謝などに充てられる」と歓迎する。これまで世帯年収910万円未満という制限で、支援金は支給されなかった。
受験を控える中学2年の長男は私立高も視野に進路を考える。「学費を気にせず、学ぶ環境、教育内容を吟味して進学先を選べる」と利点を挙げる。
県教育委員会によると、23年度に公立高に通った生徒の85%にあたる約2万4000人が就学支援金を受け取ったが、約4000人は対象外だった。
私立は26年度から加算分に世帯年収590万円の制限がなくなり、支給上限も39万6000円から45万7000円に引き上げられる。県学事法制課によると、23年度の私立全日制に在籍する約1万4400人のうち2400人が対象外。通信制は県外在住を含む約1万2400人のうち、約2500人が対象外だった。
県内の私立高関係者は、支援金拡充を歓迎する。生徒を送り出す公立中学の関係者も、私立高へ追い風になると予想する。「学習環境が整っている私立と公立の差がますます広がる」と川薩地区の元校長。今春卒業した生徒の半数以上は、私立や高専に進学した。
「もはや私立が滑り止めという時代ではない」。鹿児島市の中学校長は指摘する。私立志望の生徒が不合格者となるケースが出てきたという。県私立中学高等学校協会の原田賢幸会長は「私立が担う役割が大きくなったと捉え、さらなる教育の質向上に努めていく」と引き締める。
今春の入試で定員割れとなった公立高は61校127学科に上る。「無償化でさらに窮地に立たされる」。鹿児島地区の公立高元校長は危機感を募らせる。25年度入試では2次募集までかけたものの、全学科の定員は埋まらなかった。
少子化に加え、他の公立や私立に一定数が流れたとみている。「私立に劣らない学習環境の整備はもちろん、通学手段や生徒募集の充実など、幅広くてこ入れしないと選ばれなくなる」と漏らした。