お茶といえば「やぶきた」が有名ですが…〝エース〟だけに頼らない。試行錯誤の末に組み上げた万能オーダーが多様なニーズを捉えた

2025/04/02 21:30
100品種以上が植えられる農研機構枕崎茶業研究拠点の見本園。葉の色も形もさまざまだ=枕崎市
100品種以上が植えられる農研機構枕崎茶業研究拠点の見本園。葉の色も形もさまざまだ=枕崎市
 鹿児島県は2024年産の荒茶生産量で初の日本一になった。戦後に生産を拡大した後発産地ながら、官民一体となって先進的な取り組みを進め、ニーズに柔軟に応えてきた。県内茶業界の歩みを振り返り、現状と課題を探る。(連載「かごしま茶産地日本一~これまで/これから」④より)

 茶の品種と言えば、静岡県の在来種から選抜され1953年に品種登録された「やぶきた」が有名だ。国内栽培面積の約7割、静岡だと9割近くを占めるが、鹿児島は3割と全国で最も低い。

 鹿児島の産地の特色として機械化と並び挙げられるのが、品種の多さ。やぶきた以外に「ゆたかみどり」26%、「さえみどり」15%をはじめ、収穫の早い早生(わせ)から遅い晩生(おくて)まで、20品種以上がバランスよく栽培されている。

 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)茶品種育成・生産グループ長の吉田克志さん(59)によると、「病気に弱いやぶきたが鹿児島にあまり適さなかった」のが一因。茶工場の大型化で稼働率向上のため茶期分散を図る必要があったこと、平地が多く重機が使えて優良品種へ改植しやすかったことなども多様化を促した。

 ■上級に化ける

 温暖で雨の多い県内では病気に強い品種が好まれた。中でもゆたかみどりは代表と言える。多収でやぶきたより収穫期が早く、収益増が見込めるとして66年に県奨励品種になった。71年の貿易自由化で紅茶生産が中止され緑茶への転換が進められた際も多用された。

 ただ、当初はいざ収穫してみると、色が赤みを帯びて渋く、評判はひどかった。これを解決し、普及のきっかけを作ったのが下堂園(鹿児島市)の創業者、下堂薗實さん(故人)だった。

 同社によると、茶葉を仕入れてしまったため加工段階で試行錯誤したところ、火入れの温度を高めることで香りが良くなることが分かった。「上級茶に化ける」と確信し、旧県茶業試験場や農家と共に、覆いをかぶせて日光遮る被覆栽培と深蒸しにより渋みを抑え、色味を改善する技術を開発した。

 その後、同社は静岡のやぶきたが席巻していた関東に「七十七夜の走り新茶」とうたって売り出し、茶商の支持を得て、90年代にかけて鹿児島県内で栽培が広がった。

 ■ゲームチェンジャー

 2000年代からは色、味ともに優れるさえみどりが面積を広げ、県産茶の高品質化を支えた。耐病性重視の品種導入は有機栽培への転換にも有利に働き、吉田さんは「地域に合った品種をうまく活用し、柔軟に産業構造を転換させている」と感心する。

 近年は農研機構枕崎茶業研究拠点の育成で20年に登録された「せいめい」が伸びている。病気に強く被覆栽培すれば、うまみ成分のテアニン含量が京都の高級抹茶を上回る。

 県農業開発総合センターの内村浩二茶業部長(59)は「有機栽培や抹茶原料のてん茶への適性が高く輸出向けに使える」と期待する。24年には100ヘクタールを超え、県内で8番目に増えた。

 静岡県も優良品種への改植を進めているが、傾斜地の多い立地条件もあり苦戦しているという。時代とともに変化するニーズに応える多様な品種は、茶業界のゲームチェンジャーになる可能性も秘めている。

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