人工衛星開発も「官から民へ」の時代…産学官連携進む福井、ロケット基地がある鹿児島は歯車かみ合わず

2025/05/12 11:21
鹿児島ロケットの振動試験をする鹿児島大学生=2024年12月、霧島市
鹿児島ロケットの振動試験をする鹿児島大学生=2024年12月、霧島市
 世界的な宇宙開発競争が激しくなる中、事業主体は官から民主導へ急速に移行している。国内でも民間企業によるロケットや衛星開発が相次ぐ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の二つの射場があり、日本の宇宙開発を長年支えてきた鹿児島県だが、衛星活用や民間企業の参入はまだ一部に限られる。急成長が見込まれる宇宙産業を地域振興につなげるための課題を探る。(連載「かごしま宇宙新時代」⑤より)



 1月15日、福井県の企業や大学が開発した小型衛星「FUSION-1(フュージョンワン)」が米スペースXのロケットで打ち上げられた。観測カメラなどを搭載。衛星の活用を進め、県内の宇宙産業の活性化にもつなげたい考えだ。

 福井県では、産学官などの連携による「宇宙産業の拠点化」に向けた取り組みが進む。きっかけは、2021年に県が主導して打ち上げた小型衛星「すいせん」だ。林業や農業で衛星活用を進めるとともに、小型衛星の試験設備も整備した。

 「FUSION-1」は、「すいせん」を機に宇宙産業に参入した繊維会社セーレン(福井市)が中心になり開発。担当者は「県の取り組みが大きな後押しとなった。今後も宇宙利用を進めたい」と力を込める。

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 一方で、鹿児島県内の宇宙産業の歯車はうまくかみ合っていない。10年と14年に鹿児島大学や地元企業による小型衛星「KSAT」と「KSAT2」が軌道投入されたが、中心的存在だった鹿大教授が転出し、“鹿児島産衛星”は事実上進んでいない。

 現在は、KSATに携わり、流体力学が専門の鹿大の片野田洋教授(54)が、第一工科大学の徳永正勝教授(63)や民間企業と連携して小型の「鹿児島ロケット」の打ち上げに取り組む。搭載する模擬衛星は、通信技術の研究開発にとどまる。

 KSATに関わった民間企業の担当者は、「リーダー不在の影響は大きい」と指摘。「宇宙産業への参入は一企業だけでは障壁が高い。再びみんなで連携して衛星を作るなどして、技術開発を進めていければいいのだが」と漏らす。

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 宇宙産業は官から民に移行しつつあり、各地で利用、開発が進む。これまで官頼みだった鹿児島が今後も「宇宙県」であり続けるためには何が必要か。

 眞竹龍太志學館大学客員教授(48)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所を活用した人材育成や民間利用の推進を国に要望する。「射場がある特徴を生かして、まずは若者の人材育成を進めたい。時間はかかるが、そのことが鹿児島の宇宙産業の将来的な活性化につながるはず」と話す。

 鹿児島市出身で、JAXA宇宙戦略基金事業部の上村俊作次長(48)は、上場企業のQPS研究所(福岡市)社長らと九州の宇宙産業の活性化に向けた一般社団法人を設立した。「鹿児島でも衛星データの活用などを進めていく必要がある。鹿児島にも核となる企業を生み出したい」と話す。

 「宇宙に近い」から「宇宙を使う」県へ。「稼ぐ力」の向上を目指し模索が続く。

 ■宇宙豆知識「射場の位置」

 ロケットを東向きに打つ場合は、西から東向きの地球の自転エネルギーを利用できる。射場が赤道に近いほどこのエネルギーは大きくなるほか、衛星を赤道上の静止軌道に投入する際も有利となる。鹿児島に二つの射場がある大きな理由だ。ただ近年は南方向や低軌道に打つ衛星が増えており、赤道に近ければいいというわけではなくなっている。

=おわり=

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