ぎりぎりまでバスを走らせて…最強台風接近にも指示した鹿児島交通社長、SNSで「公共交通事業者としての矜持」を強調

2025/06/08 11:30
台風時の運行マニュアルを示す鹿児島市交通局の郡司敏郎バス事業課長=5月21日、同市
台風時の運行マニュアルを示す鹿児島市交通局の郡司敏郎バス事業課長=5月21日、同市
 鹿児島県内の路線バス事業者が苦境にあえいでいる。「ドル箱路線」で稼ぎ、地方の赤字路線をカバーする経営モデルは2000年代初めの規制緩和で崩壊。利用低迷が続く中、運転手不足対策、車体更新、サービス向上と取り組むべき課題は少なくない。公共交通機関としての在り方を模索する事業者の本音や苦悩を紹介する。(連載かごしま地域交通 第3部「事業者の苦悩」②より)

 「ぎりぎりまでバスを走らせて」-。2024年8月末、鹿児島県内を過去最強クラスの台風10号が襲った。最接近を前に、28日昼時点で商業施設などの営業時間短縮や休業が相次ぐ中、鹿児島交通の岩崎芳太郎社長は現場に指示した。

 鹿児島市内の路線バスでは、市交通局が28日正午からの計画運休を既に決定し、南国交通は午後3時半から順次運行を見合わせた。一方、鹿児島交通は午後6時まで運行を続けた。姶良方面ではJR日豊線と並行する区間があり、列車の計画運休で移動できなくなった利用者を救済する狙いもあった。

 薩摩地方が暴風域に入ったのは午後8時ごろ。それまでに鉄道やバス、船、飛行機と県内の主な公共交通機関は動かなくなった。

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 近年、台風や大雨の際、公共交通機関は早めに運休を決める「計画運休」が増えた。乗客の安全確保と混乱防止を目的に事前に周知する。JR西日本が14年10月の台風19号で実施してから、広く言葉が知られるようになった。

 「昔なら考えられなかった」。JR九州バスの永里克志鹿児島支店長は明かす。同じJR九州で長く列車の運転士や運行管理の指令部門を務めた。「悪天候が見込まれていても風速や雨量が規定に到達していなければ、走らせるのが基本だった」と振り返る。

 規定通りに運行させたために途中駅で停車せざるを得なくなったり、代替手段の手配に苦労したりと苦い経験もした。運休を早く決断して周知する方が利用者にも親切-。そう痛感した永里支店長は「今でも何か判断する際は、鉄道勤務時代の教訓が根底にある」と話した。

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 国土交通省によると、悪天候による路線バスの運休は事業者の判断に委ねられる。事業者は風速や視界などの基準を独自に設定。天候回復後は道路状況を確認する必要があるため、運行再開にばらつきが出てくる。

 早めの運休決断を、市交通局の郡司敏郎バス事業課長は「バスが走っているから外出しても大丈夫だと市民に思わせ、けがにつながる恐れもある。計画運休なら未然に防げる」と前向きに捉える。南国交通の担当者も「無理に走らせれば事業者側が責任を負うリスクが高くなる」と話す。

 こうした流れに対し、鹿児島交通の西村将男副社長は「安全に運行できるかを判断するために、各営業所に国家資格の運行管理者がいる。基準内であれば走らせるのが使命では。利用は少ないが医療・介護などのエッセンシャルワーカーもいる」と指摘する。

 鹿児島運輸支局の野元雅幸支局長は安全確保が大前提とした上で「あらかじめ運休を決めるのも、基準内なら運行するのも、どちらも悪いことではない」と事業者の判断を尊重した。

 鹿児島交通の岩崎社長は後日、交流サイト(SNS)のX(旧ツイッター)に記した。「我が社は公共交通事業者としての矜持(きょうじ)がある。社員も理解しており、決して安全をおろそかにしているわけではない」。この姿勢は今も変わらない。

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