命守る「水泳」の授業、どこで教える? 古いプールの維持難しく、広がる民間委託 鹿児島県内ではバスで移動し「共用」も

2025/06/09 11:45
ビート板なしの息継ぎに挑戦する錫山小学校の児童=5日午前、鹿児島市の原田学園スイミングスクール=5日午前、鹿児島市の原田学園スイミングスクール
ビート板なしの息継ぎに挑戦する錫山小学校の児童=5日午前、鹿児島市の原田学園スイミングスクール=5日午前、鹿児島市の原田学園スイミングスクール
 本格的な水泳授業のシーズンを迎え、鹿児島県内では、民間委託や公営施設を活用する小中学校が増えている。プールの老朽化や維持管理の負担軽減などが理由で、全国では中学での実技指導の廃止に踏み切る自治体も相次ぐ。水難事故防止の観点から学習指導要領では実施が原則。試行錯誤する各自治体の取り組みや課題をまとめた。

 「腕は太ももに触るくらいしっかり回して」。5日、鹿児島市の原田学園スイミングスクールで、錫山小中学校の児童生徒18人がインストラクター6人に実技指導を受けていた。同行した3人の教員も、見守りながら子どもたちに声をかける。市教育委員会が2024年度から進める学校プール共用化等検討事業の一環だ。

 学校から貸し切りバスで約20分かけて移動。夏休み前まで1日2こま、5日間の実技指導を受ける。「学校のプールより温かくて、浅いから怖くない」「クロールができた」と子どもたちは笑顔を見せる。

 錫山小中のプールは1976年建設。漏水やろ過器の故障で、毎年のように修繕が必要だった。山間部にあるため動物が侵入したり草木が伸びてきたりして、管理が難しい状態だった。

 小規模校のため中学の体育専任教員がおらず、本来は数学を担当する前村健太教諭(41)が臨時免許で指導する。「専門外で不安があったのでありがたい」と歓迎する。

■費用抑制

 市教委は昨年度、花尾小と南方小をモデル校に民間委託を始めた。保護者にも「プロの指導で泳力向上につながる」「屋内プールだから気温や天候に左右されない」などと好評だった。

 本年度は錫山小中を加え、委託費とバス移動費計440万円を予算計上した。プールの修繕費や水道代など維持管理費は1校当たり年平均約100万円。市教委保健体育課の山口伸一課長は「単年度では割高だが、大規模修繕の必要がなくなれば長期的には費用を抑えられる」と話す。今後は鴨池公園水泳プールなどの市営施設活用や、複数校での共用も検討を進める。

 課題もある。前後の授業に差し支えないよう、移動時間は20分以内を目安としているが、条件を満たす施設があるとは限らない。民間や市営のプールは一般利用者もおり、授業受け入れには調整が必要となる。

 学習指導要領は小学1年から中学2年の水泳実技を必修としているが、「適切な水泳場の確保が困難な場合」は例外が認められている。神奈川県海老名市や岩手県滝沢市など、県外では、中学校での実技を実施せず、座学や救命救急講座のみとする自治体も出てきた。

■命を守る

 鹿児島県教委によると、プールがある県内の公立小中学校は23年度時点で706校中569校。老朽化や修繕管理などの負担軽減は共通の課題だ。

 中学校再編を控える長島町は公営プールで授業を行う。日置市は昨年度から小学校3校が市営や民間を利用し、本年度は6校に拡大。曽於市は本年度から小学校6校で市民プールを活用し、実技指導は指定管理者に委託する。

 このほか霧島市は本年度から、4小学校が公営や学校プールで民間の指導を受け、1中学校が公営を利用する。枕崎市やさつま町も公営、奄美市などは民間のプールを使う。移動手段はスクールバスや公営バスのほか、天城町は公用車数台で送迎している。

 県教委保健体育課の山元尚史課長は「命を守ることが水泳実技の大きな狙い。課題は多いが、学校や地域の実情に合わせた方法で実施してほしい」と話した。

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