オーバーツーリズムで悩むのは都会だけ? 政府が進める観光立国、地方は恩恵実感できず

2025/07/14 06:22
クルーズ船ツアー客らでにぎわう天文館=6月22日、鹿児島市東千石町
クルーズ船ツアー客らでにぎわう天文館=6月22日、鹿児島市東千石町
 新型コロナウイルス禍が収束し、インバウンド(訪日客)需要が好調だ。2024年は人数(3687万人)、消費額(8兆1257億円)とも過去最高を更新した。政府は「観光立国」を掲げ30年に訪日客数6000万人、消費額15兆円を目指すものの、鹿児島県では宿泊者数が伸び悩むなど温度差は否めない。県内関係者は「地域の実情に沿った施策を」と求める。

 6月22日、鹿児島市の天文館は外国人であふれていた。大型クルーズ船が同市のマリンポートかごしまに寄港しており、うなぎ店やラーメン店には列ができ、土産物店やドラッグストアでは外国語が飛び交った。

 県内では25年上半期(1~6月)、クルーズ船寄港が過去最多の108回に上った。揚立屋天文館店では、来店客の約2~3割を訪日客が占める日もあり、社員の櫻井香織さん(43)は「感覚的にはコロナ前より多い」と笑顔を見せる。

 「クルーズ事業は成長領域。地方創生の好機につながる」と語るのは、貸し切りバス事業などを手がける南薩観光(南九州市)の菊永正三社長(56)。寄港が多い鹿児島市以外の自治体とも連携し、地方を周遊するツアーを展開している。

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 一方で、県内の宿泊を伴う訪日客は回復途上だ。観光庁によると、県内の24年の外国人延べ宿泊者数は62万人。前年より71.5%増加したが、19年比では73.8%にとどまる。九州7県では5位。コロナ前を既に上回る700万人超えの福岡、約150万人の大分、熊本に大きな後れを取る。

 県ホテル旅館生活衛生同業組合の淵村文一郎理事長(66)は「観光業は裾野が広い。クルーズ船効果も大きいが、宿泊が伴えばホテルに居酒屋と、地元に落ちるお金も違う」。今年は大阪・関西万博に関心が集まり、県内ホテルの稼働率は弱い見込み。「地方への交通費補助など、国内周遊を後押ししてもらえないか」と話す。

 伸び悩む一因は、鹿児島空港(霧島市)の国際定期便の再開遅れにもある。ただ遅れの主因となった人手不足の解消は、どの業界でも難しい。菊永社長は「新幹線や国内線で地方へ分散させれば経済効果は波及できる。県境をまたぐ施策こそ国がリーダーシップをとるべきでは」と指摘する。

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 オーバーツーリズム(観光公害)で悩む観光地もある中、大隅半島は訪日客やクルーズ船効果の実感が得にくい地域だ。行政や企業が連携し、観光による地方創生を担うDMO(観光地域づくり法人)「おおすみ観光未来会議」(鹿屋市)の執行責任者の金子昭広さん(61)は「公共交通も先細る中、アクセス面が大きな課題」と明かす。

 DMOは観光庁の制度で、登録されると関係省庁から資金や情報提供など支援を受けやすくなるが、「採択のハードルは高い」と感じる。食文化に触れるガストロノミーツーリズム事業に応募したが落選。自前開催を模索するも「資金には限界がある」と嘆く。

 国は訪日客の地方への誘客や持続可能な観光地づくりを進める。金子さんは「何が足りず落選したのかも分からない。インフラを含む受け入れ側の体制づくりをはじめ、助言や助成も充実させてほしい」と訴えた。

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