スマホで高報酬の“仕事”を見つけた女は闇バイトから抜けられなくなった(記事と写真は関係ありません)
「借金があり、家族に迷惑をかけたくなかった」。傍聴席で息子や娘が見つめる中、母親で被告の50代女は終始むせび泣いていた。
警察官になりすまして鹿児島市の高齢女性からキャッシュカードを盗み、現金約82万円を引き出した。いわゆる「受け子」と「出し子」の役割を担ったとして窃盗の罪に問われた。
「警察に相談できなかったのか」。弁護人からの問いに、女は「パニックや恐怖に支配されていた」と泣きながら振り返った。
アルバイト・高時給-。約200万円の借金を抱えていた女はスマホで見つけたネット広告に目が留まった。「介護関係」とある。電話すると、男から「お年寄りの身の回りの世話をする仕事」と説明を受けた。
その後、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」でやり取りが始まった。“初仕事”として「アカサキ」と名乗る男から、無人の高齢者宅でキャッシュカードを探すよう指示があった。「おかしいかも」。違和感を覚えながらも家に入った。しかし、キャッシュカードは見つからなかった。
「もうできません」。電話で男に伝えると、「引き返せない。既に不法侵入しているお前は犯罪者だ」と脅された。娘の住所など家族の個人情報を握られており、「孫に危害を加えるぞ」とたたみ掛けられた。女の父親には非通知の電話が何度もかかってきた。
恐怖から、次の案件も引き受けた。スマホとワイヤレスイヤホンをつなぐと、矢継ぎ早に指示を受けた。
別の80代女性宅まで足を運び、玄関前でためらっていると、女性が「おいで」と手招きした。女性はこの時既に、「詐欺事件に巻き込まれる可能性がある。警察官を向かわせる」とかけ子からだまされていた。
女は“警察官”として、女性が用意していたキャッシュカード3枚を封筒に入れて受け取り、女性が離席した隙にダミーの封筒とすり替えた。家を出るとすぐさま金融機関に行き、82万7000円を引き出した。6万7000円が報酬とされ、大半は指示に従って送金した。
その後、不審に思った女性が通報し、女は逮捕された。それ以前に自首も考えたが「警察に言うな」と男の電話はやまなかった。
離れて暮らす息子は証言台に立ち、母親の借金を詳しく知らなかったと話した。再び罪を犯さないように、定期的にスマホの検索履歴を確認すると述べた。しかし、裁判官から「家族から監視され続ける人生はどうなのか」と問われると、言葉を返せなかった。「まずは借金について話し合うべきでは」。そう諭されると静かにうなずいた。
判決は懲役3年、執行猶予4年。被害者に一部弁償したことを考慮したと裁判官は伝えた上で「警察に相談するなど、良識ある社会人としてとるべき手段はあった」と語気を強めた。
女は涙目で一礼し、法廷を後にした。家族に迷惑をかけられないとの動機は、「前科」という十字架を背負う結末を招いた。