里見弴と戦争との関わりに迫る展示=薩摩川内市の川内まごころ文学館
鹿児島県薩摩川内市ゆかりの作家、里見弴(1888~1983年)の生誕記念展示「おのづと明るい方へ」が、同市の川内まごころ文学館で開かれている。戦後80年の節目に合わせ、里見が戦中戦後に執筆した作品や収蔵資料20点を紹介し、戦争との関わりや思いに着目する。8月31日まで。
里見の生涯は、日本が数々の戦争を経験した時代と重なる。四男一女に恵まれたが、男子は全員が出征した。展示する短編「向日葵(ひまわり)」は長男が中国へ派遣され、海軍の幹部候補生となる知らせを受け取るまでの経験を基に執筆。記念展示の題名は、出征の日に父が息子へ語りかける場面から取った。
里見は、戦争の過程を示す資料として極東国際軍事裁判(東京裁判)に提出された「原田文書」の校訂を担った。文書は首相を2度務めた西園寺公望の言動や政界・軍部・宮中の動向を詳細に記録し、後に「西園寺公と政局」として刊行。その序文を里見が執筆し、実際の原稿も展示する。
長男が戦死した里見は戦後、軍部などへの怒りを作品にした。70年には自身の戦争体験をつづった随筆「戦争とわたし」を発表。「二つあるものは必ずぶつかる、という考えで行かなくちゃならない。(中略)世界から戦争というものを絶滅させるなんてことは、ちょっと無理」と記す。一方で「ただ戦争反対だ、徴兵はいやだ、いやだって、駄々こねるみたいなこと言ってたって、なんの役にも立ちゃァしない」としている。
学芸員の財部智美さん(47)は「まごころの大切さを説いた里見の戦争観が分かる。世界各地で戦争がある今、その言葉を通じて平和について考える機会になれば」と話した。
午前9時~午後5時。月曜休館(祝日の場合は翌日、8月12日は開館)。大人300円。小学生から高校生は平日150円、土日祝日無料。