〈資料写真〉震度6弱の地震後、避難先となる悪石島学園のグラウンドにテントを立てる教職員や住民ら=7月3日、十島村悪石島(同学園提供)
鹿児島県のトカラ列島近海を震源とする群発地震が続く十島村の悪石島。周囲を断崖絶壁に囲まれた島が、最大震度6弱に見舞われてから3日で1カ月となる。国内では昨年8月の日向灘沖地震以来、県内では1997年5月の県北西部地震以来となる規模だったが、住民76人は全員無事で火災などの被害も出さなかった。この日、住民はどう避難し行動したのか。関係者の話で緊迫の一日を振り返る。
「ドーンという音がして格段に大きい縦揺れがきた」。7月3日午後4時13分ごろ、児童生徒14人が通う義務教育学校・悪石島学園の當房芳朗校長(52)は衝撃を受けた。子どもたちは既に下校していた。
震度5強以上の地震があれば学園グラウンドに避難する取り決めとなっていた。住民らは徒歩や車で集まってきた。「子どもたちは大丈夫ですと皆答えたが、泣いている子もいた」。
高齢者も多い。住民や職員のほか後期課程(中学生相当)の生徒が協力しテント3基をグラウンドに立てた。夕方とはいえ日差しが厳しい。熱中症になったら大変との思いを共有した。
■全員の無事確認
村議会議長で島の自治会長を務める坂元勇さん(60)は地震発生時、ガソリンスタンド前にいた。すぐに両親を連れ車で学園に向かった。高齢の2人はエアコンをつけた車内に残した。
午後4時53分、全員の無事を確認し役場に報告。地震発生から40分足らずだった。「皆落ち着いていて集まるのが早かった。島は一つにまとまってる」。坂元さんは実感した。
1時間何もなければ解散することになっている。この間、消防団員4、5人がガスの元栓などを確認して回った。午後5時半、避難指示解除。坂元さんをはじめ住民の多くが安どした。
鹿児島市にある村役場も地震発生の一報を受け緊迫した。すぐに災害対策本部を設置。状況確認や関係機関への連絡に追われた。6月から地震が続き、庁内では避難指示発令などを想定し準備を進めていた。危機管理室の木田拳太郎主事(24)は「無事という連絡が入りほっとした」。
■いま一度備えを
震度6弱から1カ月がたち課題も見えてきた。学園の當房校長は「これから時間をかけて子どもたちの心のケアをしていく必要がある」と考えている。
自治会長の坂元さんは「生まれ育った島でこれからも暮らしたい」と願う一人だが、今回の地震で移住者たちが島を離れないか心配する。「災害への備えをいま一度皆で考えたい」
坂元さんが希望を寄せるのが伝統行事「ボゼ祭り」。仮面神ボゼが島民や観光客らを棒で追い回し邪気を払う島の象徴的祭りだ。「地震が収束したとは言えないが9月に予定する。島に元気を取り戻せれば」と力を込めた。