終戦しても終わらない緊張と覚悟。「米兵が上陸する。何をされるか分からない」――女学生は髪を切り、顔を土で汚した #戦争の記憶

2025/08/16 11:43
照光寺の追悼式で手を合わせる住民=15日午後、湧水町幸田
照光寺の追悼式で手を合わせる住民=15日午後、湧水町幸田
 終戦の日の15日、鹿児島県湧水町幸田の照光寺は、門徒約180世帯に関係する戦没者を調べ、判明した51人の追悼式を初めて開き、約50人が参列した。住職の福本正謙さん(87)には地区の住民が出征する記憶が残る。「この節目に追悼しなければ機会を逃す」と年初から準備してきた。

 戦時下の地域の様子を伝えたいという思いもあった。近くの幸田小学校には日本軍の部隊が駐留、寺には上官とミシン部隊と呼ばれた女学生が寝泊まりした。

 80年前の8月15日、「上官と女学生が寺の本堂で盆踊りをしていた」。突然、上官らが踊りから離れ、張り詰めた空気が漂った。「終戦の伝令が伝わったのだろう」と振り返る。この日は「米兵が上陸する。女性は何をされるか分からない」というデマが流れ、学生たちは髪を切り、顔を土で汚した。小学校前では住民が夜通し警戒に当たった。

 山中の集落にも戦争は影を落とした。校内に部隊が駐留したため授業は木陰で受け、婦人会は校庭で竹やりの訓練を繰り返した。物資不足のため寺の鐘は回収された。「仏教も戦争に協力した。全ての命を大切にするはずの宗教の教えさえゆがめられる」と嘆く。

 ロシアがウクライナに侵攻し、中東でも紛争が絶えない。日本政府は南西諸島防衛の強化を掲げ、県内でも防衛力強化が進む。「いつか来た道をたどろうとしていないか。他国の人々と心を通じ合わせなければ争いはなくならない」と力を込めた。

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