「エイタロウ」の一場面
オール鹿児島ロケ、出演者はすべて鹿児島在住の映画「エイタロウ」が9月23日、全国に先駆けて鹿児島市の鹿児島ミッテ10で公開される。映画「クライマーズ・ハイ」のプロデューサーや「血と骨」の助監督などを務めた久保理茎(りけい)=鹿児島市出身、在住=が監督。働きながら地方で役者を続ける主人公エイタロウのヒューマンコメディーだ。「地方の力によって地方を照らし、世界を射抜くオリジナル作品を目指した。地方の役者のリアルな姿を描きたかった」と語る。
エイタロウはビール会社の契約社員として働き、妻子を養う。役者が唯一の生きがいだが、このまま地方で埋もれていいのか、と焦りを募らせている。そこにある女性が現れたり、職場からの圧力を受けたりと悪夢のような事態が次々と起こり、追い込まれていく。それでも大切な人から託された壮大な悲劇上演を果たそうとするが…。
主演の徳田英太郎は、実生活でも映画と同じ契約社員で、鹿児島の劇団で活動する役者。物語は徳田の体験に基づくフィクションだ。以前、監督が関わった児童劇に徳田が出演し、「地に足がどっしり着いた立ち姿」が印象に残っていた。何年か後に偶然、桜島フェリーで妻子連れの徳田と再会。道中、高校を中退してから、暗くなった人生が人々との出会いによって再生された経験を聞き作品化を思い立ったという。
鹿児島にこだわったのは地方の映像、演劇文化のあり方に危惧を抱いていたから。ロケ誘致に成功しても製作するのは大都市の会社で、内容も観光PRや特産品の売り出しといった「ご当地映画」の側面が強くなりがち。演じる側の育成もできていない。「両輪」をつくるべく手がけたのが本作だ。
私財も投じた。「最も苦労したのは上映館探し」。ミッテ10の担当者に掛け合い、低予算の独立系の映画では珍しいシネコンでの上映が決まった。10月には「カメラを止めるな!」「侍タイムスリッパー」などの大ヒット作を生んだ独立系の聖地と呼ばれる東京の池袋シネマ・ロサでも公開される。