一番茶の収穫が始まり、みずみずしい若葉を摘み取る農家=3月、西之表市古田
2025年産の一番茶生産量で、鹿児島県が初めて静岡県を抜き、ついに全国1位になった。これまでは全国屈指の茶産地でありながら、二番茶以降が多いドリンク原料供給県にとどまってきた。県内の茶業関係者からは「大きな誇り」「かごしま茶のブランド力を高めるきっかけになる」と喜びの声が上がった。
一番茶は、シーズン初めに摘採される新芽の茶。十分に栄養を蓄えているため、後続の二番茶や三番茶と比べ品質が高い。静岡や京都は高値で取引される一番茶が主力で、必然的に知名度も高くなった。鹿児島が荒茶全体の生産量で日本一になった24年産も、一番茶では静岡に1550トンもの差をつけられていた。
ただ、一番茶で全国首位となったことで、25年産の全体生産量でも1位の可能性が高まった。かごしま茶のブランド力向上にとっても追い風で、県茶業会議所の光村徹専務理事(62)は「生産者のたゆまぬ努力と、地域の連携によるたまもの。これまでの取り組みが実を結んだ」と喜んだ。
一番茶好調の一因には、世界的な日本食ブームを追い風にしたてん茶(抹茶原料)の増産がある。煎茶より栽培期間がやや長く収量は多い。一番茶の中でも、てん茶は高く取引される傾向にあり、煎茶から転換する農家も少なくない。
24年産の県内のてん茶生産量は2150トンで、4年前に比べ約2.7倍と急成長中だ。茶販売店「お茶の沢田園」(鹿児島市)の澤田了三会長(74)は「今年は全体的に茶価が高く、抹茶や有機栽培茶の海外需要はすごい。今回の1位は、海外に向けてもPRできる」とみる。
県茶生産協会の田原良二会長(66)は「率直にうれしい」としつつ、「これまでの厳しい茶業経営を思うと、順位は重要ではない」と冷静に受け止める。担い手の高齢化や資材価格高騰など、生産現場では苦境が続く。静岡県お茶振興課の担当者も「茶園や担い手の減少が止まらない。少ない人数で、どれだけ生産量を維持できるか考えないといけない」と話した。
人口減少とともに、お茶の国内市場は縮小の一途をたどる。海外のてん茶需要は好調なものの生産量は限られている。田原会長は「まずは多くの人にお茶を飲んでほしい。全国の茶農家で茶業界全体を盛り上げたい」と願った。