鹿児島県の三島村がネット上の中傷防止へ条例制定に踏み出したのは、被害者が相談しやすい環境を整え、支援を円滑にする狙いがある。専門家は、人的資源が限られる小規模自治体でも整備できる対策はあると指摘する。
村は、職員が匿名のユーザーから名指しで中傷され、県警に被害届を出した経緯を重くみた。現在、ネット上での被害を相談する窓口はなく、村幹部は「相談対応の明確なノウハウがないため、何をすべきか判断に苦慮した」と明かす。
中傷防止や被害者支援を掲げる条例は全国各地で制定されている。地方自治研究機構(東京)によると、佐賀県や福岡県小郡市、愛媛県伊方町など21自治体にある(8月1日時点)。
2024年4月に施行したさいたま市は、臨床心理士など専門の資格を持つ相談員に、電話とメールで連絡を取れる窓口を開設。相談員はカウンセリングしたり、必要に応じて弁護士への相談を勧めたりする。同市によると、毎月十数件の相談を受理している。
同市の条例制定に携わった白鴎大法学部の岩崎忠教授(地方自治論)は、匿名のネット掲示板では投稿者の特定や当事者間の解決が難しいことを念頭に「被害者の駆け込み寺を確保することが最優先。組織の人数が限られていても、しかるべき機関を紹介したり、相談を促したりする調整役は置ける」と提言した。
中傷を受けたという三島村職員は「虚偽の情報が出回っていると考えると恐怖でしかない」と胸の内を明かす。複数の知人も被害に遭っているといい「このままでは泣き寝入りする人が増え続ける。相談窓口を早急に設置してほしい」と訴える。