夜間の訓練のため滑走路を移動する米軍空母艦載機=17日午後6時40分ごろ、山口県岩国市
地元の反対を押し切り、山口県岩国市の岩国基地で17日、25年ぶりに在日米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)が始まった。FCLPは鹿児島県西之表市馬毛島に整備する自衛隊基地に移転予定で、初日の夜間訓練を現地で取材した。夜空を戦闘機が飛び交い、2時間で100回超の騒音を観測。市民は「生活が壊れる」と憤った。
夜間訓練は17日午後6時45分ごろ始まった。暗闇の中、戦闘機の緑と赤の補助灯と空気を切り裂く爆音で車輪が滑走路に触れた瞬間離陸するタッチ・アンド・ゴーをしていると分かる。機種を入れ替えながら最大3機が広島湾を旋回、滑走路の北から入り、南へ飛び立つ動きを繰り返した。
目視では2時間で80回超、戦闘機が滑走路上を飛行した(通常の離着陸や低空飛行を含む)。その度に「バリバリバリ」とごう音がとどろいた。滑走路は軍民共用で、離陸を待つ民間機のそばで3機が立て続けにタッチ・アンド・ゴーをする場面もあった。訓練は予定より1時間早い午後8時43分に終了した。
岩国市基地政策課によると、17日は昼夜計約5時間で、基地南側で263回(うち夜間104回)の騒音を測定した。70デシベル以上の騒音を5秒以上観測した数値をまとめた。騒音の最高値は、会話の聞こえにくいカラオケ店内程度とされる89.8デシベルだった。
訓練を監視した「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典事務局長(69)は「FCLPの騒音は大きさだけでなく連続性が問題。爆音が高頻度に長時間続くと生活が壊れる」と話す。馬毛島で予定するFCLPは、午前11時~翌日午前3時、年間約4800回の飛行を想定する。「馬毛島は岩国を上回る騒音にさらされる」
訓練は18日も続いた。基地の近くで草刈りをしていた川本勝利さん(80)は「ベトナム戦争の頃に比べたらましだが外にいるとやかましい。騒音の回数も多い」と顔をしかめた。
訓練は通常、東京都の小笠原諸島・硫黄島で行っていたが、同島の噴火により岩国基地で実施した。
◇住民に聞く「普段の方がひどい」「慣れた」
在日米軍の空母艦載機による陸上離着陸訓練(FCLP)が始まった山口県岩国市の岩国基地では、普段から頻繁に戦闘機が離発着する。種子島の西約12キロ沖合にある西之表市馬毛島は、整備中の自衛隊基地が運用開始されると、FCLPに加え自衛隊の戦闘機も訓練する。25年ぶりにFCLPが実施された翌日の18日、岩国基地から離れた地域に暮らす住民に日常の騒音について聞いた。
岩国基地から約8キロ北東に位置する広島県大竹市の阿多田島上空は米軍の戦闘機が日常的に行き交う。本田幸男さん(83)は「今回のFCLPより家の真上を飛ぶ普段の騒音の方がひどい。甲高いごう音で耳が痛い。テレビの音や電話の声は聞こえない」と嘆く。
島の人口は約240人。漁業を営む人が多い。「夜11時まで飛ぶので朝が早い漁師は寝不足になる。最近は飛ぶ頻度が増えた。やめてほしいが言っても通じない」と諦めを口にした。
基地から約12キロ離れた大竹市玖波(くば)3丁目の住職、御雲尚真さん(59)はFCLPについて「窓を閉め切り、テレビを見ていたので気付かなかった」と話す。「私たちは騒音に慣れてしまったが、初めて来た人は驚く。この辺りは交通量も多く線路も近い。音の感じ方は基地からの距離だけでなく飛行ルートや環境にもよる」と指摘した。
馬毛島の基地整備は2030年3月末に完了見込み。防衛省は、FCLPを含め早期の運用開始を目指し、最低限必要な施設は先行して完成させる考えを示している。