大雨で土砂流入、厳しい残暑、米価格の高騰… 重なる苦境の中「伝統と質を守る」――霧島市福山で特産「黒酢」が秋の仕込み

2025/09/19 06:00
氾濫した川から土砂が流れ込み、多数のつぼが土で埋まった宇都醸造のつぼ畑=霧島市福山町福山
氾濫した川から土砂が流れ込み、多数のつぼが土で埋まった宇都醸造のつぼ畑=霧島市福山町福山
 記録的大雨に見舞われた鹿児島県霧島市福山で、特産の「黒酢」が秋の仕込みシーズンを迎えている。一部の醸造蔵では、つぼ畑が土砂に埋まる被害が発生。米価の高騰や厳しい残暑など逆境も重なる中、醸造蔵は仕込みの準備を進めている。

 福山は日当たりのいい土地と温暖な気候が発酵に適しており、かめつぼを使った酢造りが江戸時代後期から続く。現在、八つの醸造蔵が製造し、春と秋の年2回仕込む。

 8月8日の記録的な大雨で田尻川が氾濫し、8社のうち宇都醸造(武元勝社長)と福山こめ酢(大野浩二社長)のつぼ畑に土砂が流入。つぼが壊れたり、土に埋まったりする被害が出た。

 宇都醸造では2年近く熟成していた黒酢約4トンを廃棄することになり、被害額は少なくとも800万円以上。約1カ月間、被災を免れたつぼの移動や土砂撤去など後始末に追われた。復旧作業に加え、今季は厳しい残暑が予想されるため、例年9月末からの秋の仕込みを10月半ばに遅らせる。武元社長(52)は「被害は痛手だが、黒酢造りや製品出荷に影響はない。秋からまた仕切り直しだ」と前を向く。

 福山こめ酢は、熟成中のつぼ6個(360リットル分)が割れたほか、施設の空調設備やフェンスが破損。災害による出費に、米価の高騰も追い打ちをかける。県産米にこだわり地元契約農家から米を仕入れるが、前年の倍となった米価を受けて仕込み量を半減する。仕込み時期も例年より2週間ほど遅い10月初旬にずらす。大野社長(63)は「伝統製法と品質を守りながら、厳しい状況を乗り越えたい」と力を込める。

 一方、坂元醸造は9月1日から仕込みを始めた。坂元宏昭醸造技師長(51)は「福山の元気につながるよう、品質の高いつぼ造りの黒酢を届けられるよう励みたい」と話した。

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