家は浸かった。車は水没…自治体の手は回らない――記録的大雨から住民を救った“奇跡の自治会”は、なぜ機能したのか? 姶良市

2025/09/28 11:23
多くの人が参加した白金原自治会の災害ボランティア=8月、姶良市平松(同自治会提供)
多くの人が参加した白金原自治会の災害ボランティア=8月、姶良市平松(同自治会提供)
 8月8日の記録的大雨で甚大な被害が出た鹿児島県姶良市。家屋の浸水被害は450棟を超え、車が水没する事態も相次いだ。そんな中、土砂や災害ごみの搬出など迅速な被災者支援で、自治会が存在感を示した地域がある。

 8日午前7時半ごろ。重富地区の白金原自治会(会員540世帯)は独自に設置している防災無線で、ボランティアへの参加と災害ごみ搬出に必要な軽トラック提供を呼びかけた。未明から明け方にかけて線状降水帯が発生したとみられ、雨が落ち着いて明るくなってから牧悦朗会長(79)が氾濫した狩川周辺の被害状況を確認。自治会役員や被災者と電話で連絡を取り合い、ボランティアを募ることを決めた。

 これまで例のない呼びかけだったが、午前9時に中学生や大学生を含む39人、軽トラ6台が集まり、床上浸水6世帯、床下浸水2世帯の作業にとりかかった。日曜日の10日までの3日間で延べ86人が活動した。

 市が災害ごみの仮置き場を設けたのが10日。社会福祉協議会に委託してボランティアセンターを設置したのは発災4日後の12日だったのと比べると、自治会の迅速な対応が際立つ。

 牧会長は「被災者は突然のことで右往左往している。加勢に行くのは早ければ早いほどいい。やってみて手に負えないところは行政にという考えだったが、地元業者が道路に散乱した巨大な流木を搬出してくれたこともあり、何もかもうまくいった」と振り返る。



 ボランティアの活動は計7日間で参加者は延べ186人に及んだ。姶良市の場合、災害ごみは市内2カ所の仮置き場まで自力で運ぶ必要があったが、同自治会では、軽トラの提供が連日あり、スムーズに搬出できたという。

 元県職員の牧会長は1993年の8・6水害時は垂水市で災害ボランティアを経験。退職後に県社会福祉協議会でボランティアセンターを担当し、各地の被災者支援に携わった経験が生きた格好だ。今回、被災者には、自宅を片付ける前に罹災(りさい)証明に必要な現場写真の撮影を促し、12日には自治会から見舞金を届けた。

 即席の“白金原ボランティアセンター”がうまくいった理由について、「自治会活動が活発で、住民との信頼関係がある」と自負する。子どもの登下校の見守り、子ども食堂、一人暮らしの高齢者宅訪問のほか、秋祭りやグラウンドゴルフ大会で交流を深め、活動報告は月2回配布。会員世帯の全員をカバーする傷害保険にも入っているため、すぐにボランティア募集できたという。

 防災関係では年に2回、講演会や講習会を開催。「今後も座学だけでなく意識を高める実践活動を企画していきたい」と意欲的だ。



 浸水被害が相次いだ加治木町木田の楠園自治会(会員191世帯)でも大雨後の連休中、有志が被災者宅のごみの搬出や道路の清掃をした。十数人が参加し、軽トラックは5台ほど集まったという。

 ぬれた布団やベッドの搬出を手伝ってもらったという70代男性は「体調が万全でないときに被災した。向こうから声をかけてもらってとても助かった」と感謝する。

 青壮年部長の瀬崎卓郎さん(67)は、今後の課題として「加勢が必要な人やボランティアができる人を把握するための連絡網や、軽トラックやスコップを持っている人を事前に把握するなどの体制整備が必要と感じた」と話す。

 自治会の会員は高齢化し加入率の低下が進んでいる。「今回、いざというときに協力し合う自治会がアピールできた。これをきっかけに加入増につながれば」と期待を込めた。

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