避難訓練で車いすを押す地域住民=9月28日、鹿児島市川田町の特別養護老人ホーム愛泉園
8月に霧島、姶良市などで記録的大雨が観測されたのを機に、鹿児島県内の高齢者施設で防災対策を強化する動きが広がっている。断水が続いたことを受け、飲料水の備蓄を増やしたり井戸の設置を検討したりする施設も。一方、職員が少ない夜間の避難を懸念する声も聞かれる。
県本土で線状降水帯が発生した8月8日午前3時半。霧島市のグループホームゆうゆうの当直職員は、施設前の道路が30センチほど冠水しているのを見て驚いた。近くの川の水位はライブカメラで確認していたが、内水氾濫は予想していなかった。施設は道路より高台にあったが、避難を決めた。
入所者は認知症の高齢者18人で、うち半数は車いす。当直者2人と隣接する系列病院の職員数人で入所者をおぶって、病院の2階に約1時間かけて避難させた。けがや体調不良者は出なかった。
施設では、事業継続計画(BCP)に基づき、年3回避難訓練を実施している。管理者の稲川裕樹さん(41)は「訓練の成果が表れたが、もう少し早く避難を決断できていたら良かった。夜間を想定した訓練もしていきたい」と話した。
■□■
姶良市の養護老人ホーム南天園では、断水が6日間に及び、市の給水車による補給などで乗りきった。運営する建昌福祉会(同市)の伊東安男理事長(79)は「断水すると感染症が広がる恐れもあり、死活問題。井戸の設置を検討する」と語る。
道路も一時通行止めになった。同会の特別養護老人ホームさざんか園(同市)は、利用する鹿児島市の配食サービスが食事の時間に間に合わず、備蓄食材を提供した。樋脇智教施設長(53)は「大きな災害だと、救援物資も届かないはず。3日分の備蓄食材を1週間分に増やしたい」と話す。
■□■
避難に時間がかかる高齢者をどう守るか。職員が少ない時間帯の災害を懸念し、地域で共助を高めようとする施設もある。
鹿児島市の特別養護老人ホーム愛泉園は9月28日、地域住民や消防団員を交えた避難訓練を実施。今回が3回目で、住民ら約25人が車いすを押したり、備蓄の飲料水を運んだりした。
同園は入所者約60人に対し、夜間の当直職員は3人。道路の寸断などで職員が出動できない恐れもある。上片平眞美子施設長は「住民も被災者になるため難しいかもしれないが、手伝ってもらえると助かる。車いすの押し方など対応を知ってもらえるのはありがたい」と語る。
夜間の土砂災害などを想定し、こうした避難訓練を年4回実施している。速やかに避難できるように、入所者の着替えが入った持ち出し袋を普段から1カ所に集めるなど改善を重ねる。上片平施設長は「犠牲者を出さないために、訓練を通して災害時の行動を体にしみこませたい」と話した。