遠隔授業を受ける古仁屋高の生徒=瀬戸内町
情報通信技術を生かした遠隔授業が全国で広がる。鹿児島県では、大島地区の小規模県立高校5校に単位認定可能な授業の配信が始まって半年がたった。教員不在で未開講だった科目や習熟度に合わせた授業も始まり、生徒は「進路の選択肢が広がった」と歓迎する。離島のハンディキャップ解消が期待される。
「リピート アフター ミー」。9月中旬、古仁屋高校(瀬戸内町)の英語科の授業。2年生4人が学習用端末の画面に映る教員の呼びかけに応え、英文を繰り返し音読していた。
教員がいるのは、学校から400キロ以上離れた鹿児島市の遠隔授業配信センター。ビデオ会議システム「Zoom」を使ってリアルタイムで指導する。大学進学を目指す2年生14人が3教科5科目を受講。増あかりさんは「地元を離れずに、専門性の高い授業を受けられる」と喜ぶ。
古仁屋は2、3年生が各2学級しかないため、受験科目である物理は専任教員がおらず、開講していなかった。今春から、遠隔で授業が受けられるようになり、茨木未來さんは「夢に一歩近づくことができた」と感謝。「学びを深めるため、実験もできたら」と期待を寄せた。
■小規模化に対応
遠隔授業導入は、少子化による地方公立高の小規模化が背景にある。県内68校のうち、1学年3学級以下が2015年度の28校から、25年度は34校と半数に達した。配置される教員数は定員に応じて決まるため、一部科目を開講できなかったり、臨時免許を持つ別教科の教員が担ったりする高校もある。
さらなる少子化を見据え、県教委は24年度に「魅力ある県立高づくり」事業の一環として、長期休暇中の補習で試験的に配信を開始。25年度は722万円を計上し、県総合教育センター内に配信センターを整備した。
5教科6科目の専任教員を配置し、大島北、古仁屋、喜界、沖永良部、与論の5校計189人が受講している。高校教育課の吉元彰一課長は「全校に専任教員の配置が難しい中、生徒の多様なニーズに対応できる」と狙いを語る。
■幅広い活用期待
文部科学省は、離島や過疎地の教育の機会・質を保障しようと、15年度から高校での遠隔授業を解禁。24年度からは機器購入費などを支援する補助事業を創設し、11自治体が取り組む。
今春から事業を活用する大分は、中山間地4校だった対象を27年度までに17校に増やす予定。佐賀と高知は不登校の生徒へ、愛媛ではがんなどの長期療養者への配信が始まっている。
幅広い活用が期待される一方で課題も残る。鹿児島では、生徒との交流は年2回の受信校訪問に限られるほか、接続に時間を要したり、台風で授業ができなかったりするケースもあった。遠隔授業を担当する有嶋宏一教頭(54)は「対面に劣らないくらい質の高い学習を、どう提供するかが鍵」と気を引き締める。
鳴門教育大学の藤村裕一特命教授(教育工学)は、遠隔授業では双方向のやりとりや人間関係の構築に難があるものの、「受信校の教員との連携やチャットによる対話など、工夫すれば問題ない」と指摘。授業の質を担保するため、教員研修や機器の導入といった環境整備を訴える。
へき地教育に詳しい大阪教育大学の寺嶋浩介教授(同)も、教員不足や少子化が避けられない中、遠隔授業は有効な対策だと考える。「離島に限らず、全ての生徒に学びを届けられる体制づくりが求められている」と提言した。