JR芸備線のうち、存廃協議区間を走る列車「キハ120」=9月29日、広島県庄原市
国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」②より)
鉄道の存廃を巡っては、経営面から廃止を視野に入れる事業者と存続を望む沿線自治体で議論が膠着(こうちゃく)しがちだ。JR芸備線の備後庄原(広島県庄原市)-備中神代(びっちゅうこうじろ=岡山県新見市)もその典型だった。
JR西日本は沿線2県2市と利用促進を図る検討会議を重ねてきた。2022年5月、「利用減少に歯止めがかかっていない。(存廃の)前提を置かずに将来の地域交通について議論したい」と踏み込んで提案。沿線側は「当初の趣旨と異なる」と拒否し、協議の場は持たれずにいた。
23年10月1日、改正地域交通法が施行され、国が主導し存廃を話し合う「再構築協議会」の制度が新設された。議論が進まないまま状況が悪化する事態を避けるのが目的。設置されると自治体は参加義務が生じる。
JR西が同区間での設置を要請したのは2日後だった。国土交通省の担当者は言う。「地方鉄道の存廃は、地域の事情を知る自治体と事業者で話し合うべきだ。再構築協議会は最終手段ということ」
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半年後の24年3月、ようやく迎えた初会合では、両者の溝が浮き彫りになった。
JR西は20年度までの直近30年間で沿線2市の人口が33%減なのに対し、利用者は88%減少しているとし、「大量輸送という鉄道の特性を発揮できていない」と指摘。沿線に並行して国道が通り、マイカー普及で移動に鉄道を選ぶ住民はわずかだと説明した。
一方、2県2市は「従来通りのJRによる鉄道存続が望ましい」と強調。「多額の収益を上げているのになぜ維持できないのか」「沿線人口が少なくても、移動手段や観光施策として鉄道は必要。大量輸送だけに着目すべきではない」と反論の声が相次いだ。
その後も議論はかみ合わないまま。広島県を中心に自治体側は国に対しても、ローカル線への考え方を示すよう求めている。県公共交通政策課の矢島宏司担当課長は「JRの路線は全国につながっている。1社や沿線地域だけで一部区間の存廃を決めていいのか」と疑問を投げかける。
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再構築協議会は「芸備線の可能性追求」「最適な交通手段検討」の二つをテーマに議論を進める。住民や来訪者にアンケート、商工会など各種団体から聞き取りし、鉄路が存在することによる沿線への経済効果の調査に着手した。
今年3月、現状で年2.7億円とする試算を公表。鉄道の代替でバスやタクシーを使った場合の運賃差額などを“効果”と捉えた。さらに増便や二次交通の整備といった6項目の需要喚起策を実施すれば、3.8億円増の計6.6億円になるとはじいた。
7月からは喚起策を実行に移し、その検証に入った。自治体は「26年度からの交通手段の検討も含めて結論を出していく」と説明する。
「存廃を前提としない」議論とはいえ、期限のめどは3年とされている。自治体、JR、利用者にとっての最適解を導き出せるのか。国交省の担当者は「納得してもらうため調査や検証でデータを集めている。今より利便性が優れた交通手段になるよう、国は支援していく」と述べた。