2019年に廃止された旧夕張駅。ホームとレールには草が生い茂っている=8月、北海道夕張市
国は地方鉄道の存廃議論の目安として、1キロ当たりの1日平均利用客数(輸送密度)が千人未満を示す。鹿児島県内では直近3年間でJR指宿枕崎線の指宿-枕崎や肥薩線の吉松-隼人など4路線の区間が該当する。鉄路の維持か、バス転換か。県外の他路線で先行する取り組みは、いずれ県内の参考になるかもしれない。全国の現場を訪ねた。(連載かごしま地域交通 第5部「鉄路の行方」③より)
8月上旬、JR札幌駅から釧路行きの特急「おおぞら」に乗車し、2019年4月に廃線となったJR石勝線夕張支線(夕張-新夕張、16キロ)のあった夕張市を目指した。夏休み時期でもあり、6両編成の車内は外国人観光客らで混雑していた。東へ約1時間、今では市唯一の駅である新夕張に正午前、到着した。
市南端の街外れに位置する駅前のロータリーにはバスやタクシーの姿はなく活気はない。特急から下車した森谷芳樹さん(80)は札幌からの病院帰り。昨年運転免許を返納した。「この年で初めて不便さを痛感している。うちはまだ駅に近いけど、市街地の人はもっと大変だろう」
廃線後、新夕張から市街地に向かう公共交通は路線バスのみ。時刻表を確認すると、次の便まで約1時間あった。
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夕張支線は炭鉱で採れた石炭を札幌や道外に輸送する動脈として長年地域の発展を支えた。1990年の南大夕張炭鉱の閉山に伴い市の人口は激減。ピークだった60年の11万6908人は、2015年には1割にも満たない9362人になった。1キロ当たりの1日平均利用客数は118人(15年度)と存廃議論の目安となる千人未満を大きく下回っていた。
16年、当時の鈴木直道市長(現北海道知事)が「攻めの廃線」として自らJR北海道に支線の廃止を提案。19年4月廃線となった。
「バスの便も増え、むしろ便利になった」と市地域振興課の渡邊浩二係長。市はJRから受け取った7.5億円の拠出金を元手に、交通網の再整備を進めた。地元の夕鉄バスに補助金を出し、市内を走る路線バスのダイヤを見直し。支線と並行する路線をつくり1日10往復を走らせた。
20年春には市中心部に拠点複合施設「りすた」を開業。札幌市などへ向かう都市間バスのターミナルとしての機能構築を目指した。
石炭産業衰退により多額の負債を抱えた市は07年、財政再建団体となった。住民や市関係者からは「JRから多額の金を得られたのは早々に鉄路に見切りを付けたおかげだ」と、当時の鈴木市長の決断を評価する声も聞かれる。
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「いつまで現状維持できるか」と表情を曇らすのは夕鉄バスの塚本悟志管理係長。運転手確保が慢性的な課題となる中、23年9月、札幌行きの都市間バスを人手不足や燃料費高騰を理由に廃止した。
24年9月には北海道中央バスが運行する「高速ゆうばり号」も廃止され、夕張と札幌を結ぶバス路線が消滅した。12億円かけて整備した「りすた」は存在価値を失った。
市は代替策としてデマンド交通を開始。地元のタクシー会社と提携し、札幌市近隣の北広島市まで、予約制のマイクロバスで1日4往復している。ただデマンド運行時に市内のタクシーがゼロになるケースも発生。公共交通機関の最後の砦(とりで)としての役割が果たせなくなっている。
ある高齢住民は「死ぬまで夕張で暮らしたいが、この不便さでは札幌への転居が現実的な話になってくる」。廃線から6年たつ今年、夕張市の人口は2割減少し、初めて5000人台となった。